「明平さんのいる風景」玉井五一ほか編 (風媒社/99/6)

サブタイトルは<杉浦明平生前追想集> 杉浦明平という作家のルポは、若い頃いくつか読んだ。農漁村のじめじめした空気がなく、爽快な印象が残っている。 今度追想を集めたこの本を読んで、やはりその印象に変わりなかった。 戦後の時期に、<挫折>しなかった、…

<辞書と日本語>倉島節尚(光文社新書/02/12)を読む

辞書は何をポイントにして編集されていくのか?そのために、どういう準備が必要で、作成途中の苦心は何か。 これに類したものはかなり読んできたつもりだが、それぞれ編著者の肌合いの違いも面白く、どれを読んでも興味津々。 これには、特に近未来の辞書の体…

<恋の名前>高橋順子文/佐藤秀明写真(小学館/16/2/)を読む

古代王朝以来わが国は<恋>の文化を多彩に煌めかしてきた。その軌跡を辿り様々なジャンルを博捜しまとめた詞華集。和歌・俳句から幾つかの詞華集、民謡、川柳などを含む絢爛たる<ことば>の祭典。 ▶出版社より 恋振、相惚、後朝、時雨心地、恋の瀬踏、老いらく…

<歌の彩事記>馬場あき子(読売新聞社96/11)を読む

俵万智、塚本邦雄、上田三四二等々現代歌人の短歌を取り上げ、秋の歌、冬の歌、春の歌、夏の歌に分け、歌人の目に映る世の中の不条理や人生の真理に及びつつ、世相と自然を語る楽しいエッセー集。 とりあげてある歌のひとつふたつを並べてみる。 何も写さぬ…

<評伝 野上彌生子―迷路を抜けて森へ >岩橋邦枝(新潮社11/9)

野上弥生子という作家に肉薄し、プラスマイナスを極めて日常的な立ち居振る舞いまでにも具体的に描ききった評伝。 作家として野上弥生子の漱石の激励を受けつつ出発した初めから、既に百歳になんなんとしてなお<森>を書き続けようとした終末まで、丹念に読み…

塚本邦雄『秀吟百趣』講談社文芸文庫14/11を読む

愉しいアンソロジーだ。当然のことながら、塚本の個性凜々と光っている選歌句であり、選評である。全103歌句の近現代誌。 読者は時に共感し、時に違和感もあり、この本と対話しつつ、素敵な時を過ごすことが出来る。 ▶<mmpoloの日記>2014/12/1 塚本邦雄『秀吟百趣』(講</mmpoloの日記>…

『黄金街道』安野光雅 (講談社文庫94/5)を読む

冒頭に古今亭志ん生の<黄金餅>を置いたあたりは、既にこの1冊の趣旨を尽くしている。上野駅界隈から湯島・神田・日本橋・銀座・新橋・増上寺・麻布十番から絶江坂に至る36カ所を、スケッチとミニエッセーで綴る。謂わば今風の江戸市井遊覧記。スケッチも…

『あだ名の人生』池内紀(みすず書房06/12)を読む

「最後の文士」高見順,「二科の総帥」東郷青児,「大いなる野次馬」大宅壮一,「オバケの鏡花」泉鏡花などなど全二十四人。 こういう類いの人物伝は、史記の列伝以来掃いて捨てるほどいくらでもあるだろう。現代でもそれは増え続けている。永井路子『悪霊列…

チェーホフ 追加 、更に

ところで阿刀田と同じく作家である阿部昭の『短編小説礼賛』(岩波新書86.8)という一冊がある。手許にあ るのは13刷だから、それなりに息長く売れ続けたものだろう。これには、鴎外,モーパッサン,ドーデ,独歩,ルナール,菊池寛,志賀直哉,マンスフィール ド,…

チェーホフ追加  (2007.1.1)

阿刀田高志の『チェーホフを楽しむために』(「小説新潮」連載05年)を読んだ感想として、次のことを結論として記した。「阿刀田の語りを簡単に結論づければ、チェーホフの真価は短編小説よりやはり戯曲ですね、ということになる。逆に言えばチェーホフは四…

『チェーホフを楽しむために』阿刀田高(新潮社06.7.30)を読む

この一冊は、阿刀田高が2005年4月号から同年12月号まで「小説新潮」に連載したエッセイをまとめたものだ。 まず本論に入る前に、チェーホフの生い立ちから死の三年前の結婚までが一章たてられていて、全体のチェーホフ像が提示されているのは当然なが…

.『松本清張あらかると』阿刀田高 (中央公論社97.12)を読む

これは、1994年から96年にかけて中央公論社から出された『松本清張小説セレクション』36巻それぞれの末尾に付けた解説をまとめたものだと言う。 単なる解説に止まらず,編者阿刀田高のエッセイ風感想であり,自ら小説家としての視点から,松本清張の…

「異邦の薫り」福永武彦 (新潮社79/4)を読む

それぞれの詩集がカラーで載っている口絵写真も貴重。 森鴎外(新声社)<於母影>, 上田敏<海潮音>,永井荷風<珊瑚集>,堀口大学<月下の一群>,日夏耿之介<海表集>,佐藤春 夫<車塵集>,<山内義雄訳詩集>,鈴木信太郎<近代仏蘭西象徴詩抄>,茅野蕭々<リルケ詩抄>,高村 …

『生きかた名人』池内紀 (集英社04/3)を読む

文士という言葉があり、それがなお残っていた戦後の頃まで、またそうではなくとも文筆でも名を残した一癖も二癖もある人々の銘々伝。著者は、ここに登場させた過去の人々に深い共感を持ち、温かく語る。(16/4) ▶『青春と読書』(集英社)に「名人さがし」の…

『軍用露語教程』小林勝(コレクション戦争と文学15『戦時下の青春』/集英社12/3)を読む

もう60年ほど以前に読んで強い感興があったもの。今回読見返して、そのときの感じをしたところと、歳月に紛れてもう忘れていたところとあり、半分は新しく読んだという感じ。 特攻要員として予定されている予科士官学校生徒の、しかし一方ではソ連侵攻部隊と…

『イブのおくれ毛』田辺聖子 (文芸春秋/95/5)を読む

<ベスト・オブ・女の長風呂>の1。ノヴァーリスの言葉として<男は抒情的であり、女は叙事的である。結婚は劇的である。>とあるものを、日本は関西の世界で描いて見せるエッセー群。まぁまぁ作者が、読者に興味を持って貰えるよう工夫しつつ、週刊誌に連載し…

『桂米朝句集』岩波書店/2011/7を読む

<風鈴も鳴らず八月十五日>。敗戦の時米朝は20歳で、内地のどこかの連隊にいたようだ。天皇の終戦放送が流れて暫くは、多分風鈴も鳴らないような静寂があり、続けて悲喜こもごもの庶民のため息が゛溢れたのかも知れぬ。 この一句で、米朝は俳人の一人となった…

『亡き人へのレクイエム』池内紀 (みすず書房16/4) を読む

わたしの青春の日々によく聞いた名前の数々。あの時代は既に遠く去ったのだ、という感慨を覚える。そしてまた、これらの人々により戦後の文化の大きな流れは作られていたんだという歴史を、改めて振り返ることになる。(16/7)▶みすず書房より「ペンによる肖像…

『銀座24の物語』椎名誠ほか (文芸春秋01/8)を読む

これは<銀座>を舞台にした短編を集めたもの。多くの人々にとって<銀座>は懐かしい盛り場であり、それに関連した短編ともなれば、やはり一寸は覗いてみたくなる題材でもある。 それぞれの作家が<銀座>をどう料理するのだろうという期待もある。 それ以上でも…

『飯沢匡新狂言集』(平凡社84/9) を読む

遠くヨーロッパの民話などを尋ねて、換骨奪胎日本の狂言に生き返らせた飯沢の名翻案狂言集。明治以降の経緯も振り返りながら、新たな試みも多くつくられるよう、今後を愉しみにしたいもの。(16/7)▶飯沢匡父 の転勤先の和歌山市で生まれ、愛媛県松山市を経て…

『天野祐吉のことばの原っぱ』天野 祐吉 (まどか出版03/1)を読む

<ことば>の面白さ、愉しさを僅か何ページかで語るエッセー群。思わずニヤリ、はてさてそういうことも云えるか。改めて幾許かの発見もある好著。 (16/8)▶出版内容紹介近ごろ、ことばは元気がない。コ ミュニケーションの効率第一主義というビョーキにかかって…

『本の立ち話』小沢信男 (西田書店11/3)を読む

著者の一時代に対する追悼を含めた短編エッセー集。背景には<新日本文学>VS<人民文学>という非生産的な論争も潜んでいる頃からその後、それ等には触れずに多くの知友、あるいはマスコミにも華々しく登場しなくなった過去の作家への鎮魂歌となっている。 例え…

大田実中将・沖縄根拠地隊司令官最後の打電

1945年6月6日、、米軍の激しい攻撃にさらされ孤立した沖縄戦司令部から本土参謀本部へ発信。当時決別電文の常套句であった「天皇陛下万歳」や「皇国ノ弥栄」などの文言はいっさいなく、ひたすら沖縄県民の献身と健闘を称えている。なお大田実中将は、…

華麗なる花火の影

テレビで花火師の苦心談が語られ、それらの花火が打ち上げられるのを見た。 殆ど一瞬の時間ながら、夜空に華麗なストーリーを持ってなかなかの迫力。万里の長城やピラミッドを築き遺した事業も、歴史的に貴重な遺産だが、花火の持つ美しさと、その設計製作に…