『生きかた名人』池内紀 (集英社04/3)を読む

文士という言葉があり、それがなお残っていた戦後の頃まで、またそうではなくとも文筆でも名を残した一癖も二癖もある人々の銘々伝。著者は、ここに登場させた過去の人々に深い共感を持ち、温かく語る。(16/4) 
▶『青春と読書』(集英社)に「名人さがし」のタイトルで連載した原稿をまとめる。借金・飲み助・病気・貧乏・メランコリ-
異才・天才・人気作家の作品を繙き
生きかた名人をさがす本の旅

彼が選ぶ生き方名人とは、きっととんでもない人たちに違いない。そう思って読んでみると、やはり、とんでもない人たちの話しだった。
こんな変てこな人たちを「生き方名人」と呼ぶ著者の、偽らぬメッセージが伝わってくる(もちろん、立派でない人たちへのメッセージです)。
――毎日新聞書評より 小島ゆかり


■著者からのメッセージ
人一倍のマイナスをプラスに転じた20人
ふつうなら、とても困ったことなのだ。みさかいなく借金をする。手のつけられない飲んだくれ、天成のホラ吹き、やたらに嫉妬深い……。
そんな人たちが計20人。名前を言えばごぞんじだろう。内田百閒、吉田健一寺山修司芥川龍之介……。
他人ごとではない。借金、飲み助、ホラ、妬み、自分にも覚えがある。日ごろ、あれこれ気に病んでいる。
人一倍のマイナスをいかにプラスに転じたのか。
ここはひとつ、その道の名人たちにたずねてみよう。

■本書の特色
名 文家で名高いドイツ文学者池内紀氏は、そのエッセイでも独特の視点から人間洞察の冴えをみせて評判をよんでいるが、本書では日本文学史に残る異才・天才・ 人気作家の作品をひもとき、舞台となる土地を旅しつつ、人間の本質に迫る20の名人(借金・飲み助・心中・生きのびる…)をさがしあてて、まったく新し い、楽しくて、奥の深い、読書論・生き方の作法となった。作家と作品にせまる着眼点の比類なさはまさに池内紀のア-ト(技術)。読書の楽しみを堪能しつ つ、生きかた名人に、負の特性をプラスに転じて人生をたのしむ術を学びたい。

〈本書の内容〉
生きのびるための20篇 目次
1 借金 内田百閒
2 飲み助 吉田健一
3 心中 太宰治
4 病気 堀辰雄
5 妬み 芥川龍之介
6 退屈 坂口安吾
7 借用 井伏鱒二
8 貧乏 林芙美子
9 反復 小川未明
10 気まぐれ 洲之内徹
11 おかし男 長谷川四郎
12 雑学 植草甚一
13 小言 三田村鳶魚
14 かたり 柴田錬三郎
15 腹話術 堀口大學
16 子沢山 与謝野晶子
17 メランコリー 若山牧水
18 へんくつ 正岡容
19 ホラ 寺山修司
20 生きのびる 田中小実昌