<理不尽な「過去分」請求 福島第一の処理費 国民負担、不公平感の恐れ>16/12/10東京新聞
経済産業省は九日、有識者会議などで求められていた東京電力福島第一原発の廃炉などに必要な費用の試算をようやく示した。費用試算を引き上げるのは二回目で、今後も膨らむ可能性を認めるなど、原子力政策のほころびは明らか。しかし十六日には電気料金の引き上げなど国民に負担させるための方法を正式に決めてしまう方針で、拙速な議論の進め方に批判があがっている。 (吉田通夫)
■見えない天井
「合理的に見積もれる数字ではない」。経産省の村瀬佳史電力・ガス事業部長は、経産省と財界人らでつくる「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」(東電委員会)の会合後、福島第一原発の廃炉費用について、まだ増える可能性を認めた。損害賠償や除染と合わせて事故処理に必要な費用として試算した二一・五兆円は、まだ「上限」とは言えない。
天井の見えない費用をまかなうため、経産省は今回、全国的に国民すべての電気料金に含まれる大手電力会社の送電線の利用料「託送料金」を引き上げるなど、国民負担を増やす方針を固めた。
託送料金は、国民に広く負担を求める手法として税金と同じ性格を持つ。ただし、税制の変更と異なり財務省や与党との厳しい調整が必要なく経産省が審査で必要と認めれば引き上げることができる。審議の過程で「国民負担を求めるなら税金にして国会や国民の厳しい監視を受けるべきだ」との意見もあったが、経産省は自省にとって都合の良い手法を手放さなかった。
■分かりにくさ
国民負担を増やす理屈として経産省が持ち出したのが「過去分」という分かりにくい費用の請求だ。「過去に原発でつくった電気の料金は、事故に備えて上乗せしておくべき賠償費用が反映されていなかった」として、新電力に移った消費者も含めて追加の費用を請求する構えだ。
しかし、一般の企業は決済を終えた商品の価格を後から変えて費用請求することはできない。しかも、過去の電気料金を決めてきたのは大手電力会社と経産省だ。さらに、何十年も原発からの電気を使ってきた高齢者と、まだそんなに使っていない若者が「過去分」として同様に負担することも不公平だ。