.『松本清張あらかると』阿刀田高 (中央公論社97.12)を読む

これは、1994年から96年にかけて中央公論社から出された『松本清張小説セレクション』36巻それぞれの末尾に付けた解説をまとめたものだと言う。
  単なる解説に止まらず,編者阿刀田高のエッセイ風感想であり,自ら小説家としての視点から,松本清張のそれぞれの作品を控えめな態度ながら,かつ縦横に論 じている。このように,特定の作家個人の作品についての<書評>集は、やはりまとめた作家論として面白い。
 しかも、この一冊は清張論であると同時に,阿刀田の技術的な課題も含めた小説論となっているエッセイ集でもある。作家としての、内輪話のような状況も語られて面白い。
 なお清張付きの2人の編集者(かれらは又姉妹でもあるが)の話の録音筆記も収められているのがまた興味深い。
  先頃『変容する文学のなかで』という菅野昭正の1980年から90年代にかけての書評集(上巻)を読んだが,それが多くの作家の作品を時系列的にまとめ て、20世紀末の日本文学誌となっていたとすれば、この『松本清張あらかると』は、戦後文学史の流れのなかに作家個人の文業を辿ってみたと言えるだろう。
 古歌に「見もわかぬ書籍をつづり読まんより物知る人の雑談を聴け」とあるそうだが(『古語雑談』佐竹昭広/岩波新書)そう云った意味でも、愉しく読める好い一冊だ。